2010年04月08日

無題

 三条会商店街のアーケードを行くとだしぬけに現れる公園、その角に桜の木がある。ソメイヨシノ。零れ落ちるように花を付け、花を落とすのもまた彼の仕事だ。

 子供たちが遊ぶその傍らで、行商の漬物売りが露天を出すその上で、何も言わずにはらはらと、桜色の鱗を落としている。ときおり風が吹いてはアーケードの向こうへ、無造作に置かれた自転車のサドルへ、一旦停止のタクシーのボンネットにまで、その花弁は降りかかってゆく。

 咲いたと思えば散る花。かりそめの席を若葉に譲るようにして枝から離れ、アスファルトを一面に染めてゆく花。ときに僕らは、桜の散る様を眺めて美しいと愛でるけれど、その残酷さは僕らのものか、桜自身のものか、あるいは春という装置に備わった基底音そのものが、容赦ない音色をしているのだろうか。

 ふと、若くして殺されてしまった鎌倉時代の将軍の歌を思い出す。中学校で習った、生まれながらに将軍の息子、神童と騒がれ、これを詠んだ後であっけなく死んでしまった人の、歌。

 しづ心なく花の散るらん

 何百年が経ち、天下人から市井の平凡な歌うたいに見る者が替わっても、この感慨だけは相も変わらず花と一緒に風に舞っているのだった。


posted by youcan at 18:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々、時々雨 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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