2010年11月25日

人生の午後

インフルエンザの予防接種に行く。外科で、整体院のようなこともやっていて、看護師さんがおばあちゃんに向かって「福本さん、きょうは電気(おそらく電気マッサージのことだろう)はあてますか?」と訊いているような医院。年配のお医者さんは陽気で、「いままで副作用が出たひとは三人くらいしかないです」だの「肩を出してください。腕の先のほうだと麻痺が残っちゃいますから」だのと言っては笑う。使い終わった注射器を、すこし離れたシンクに向かってぽーんと放り投げる。診察室とは別に処置室-というより唯のマッサージルームなのかもしれない-があり、くつろいだおじいちゃんたちの世間話がやたらと賑やかな医院。まるでバスの待合室のように雑多な人々が詰めるロビー、どこにも病んだ空気が流れていないその部屋の中で、会計待ち(なぜか15分程も待たされただろうか)の間に思わずうつらうつらしながら、ふと、不健康であることよりも、笑えなくなることや、優しさから遠のくことのほうが、人間にとって危ういのだと知った気がした。
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2010年11月21日

もみじ

友人の結婚式の二次会の呼ばれたのだが、正装というものが分からず、着慣れないスーツでは心もとなかったので、ひさしぶりにパーマでもあててみれば何とか見栄えするかと思い、当時行きつけだった美容院へ向かった。
担当してくれていた美容師さんはもう居なかった。尋ねてみると、二年前に広島へ帰ったのだという。実家を使って自分の店を始められたそうだ。蛙の鳴き声がやかましいほどの田舎らしいですよ、と後輩の美容師さんは笑っていた。

三次会の席で向かいに座った三人組の女性は新婦の高校の同級生だったが、その高校と言うのが広島の高校で、彼女たちはとてもきれいな広島弁で喋っていた(方言がきれい、というのは不思議な気もするが)。三人のうちいまも広島に住んでいるのは一人だけで、あとの二人は神戸に住んでいるそうだ。どうやらスーパーノアの岩橋の実家の近くらしい。そんな岩橋は京都に住んでいる。

ともあれ、ひとは移り住む生き物で、移り住んだ場所で喜んだり悲しんだりする生き物で、誰かと出会っては愛し合ったり憎み合ったりする生き物で、根を下ろしたかと思えばまたどこかへ散らばってゆく生き物で、髪を切ってもらう以外には会うことのなかった人を淋しく思ったりする生き物、遅刻は絶対にいけないと言いながらぎりぎりに到着した受付の前でショールを忘れたことに気づいてしまう生き物、余興のビンゴ大会がくだらないと言いながらも景品は欲しかったりする生き物、三次会のテーブルに着くや否や眠りこんでしまう生き物、あててもらったパーマがくせ毛風というよりくせ毛そのものにしか見えなかったりする生き物でもある。

「月並み」という形容詞が、なんだかうつくしいと思った。
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2010年11月19日

枯葉の季節

歯医者に行ってきた。一本の半分がなくなった。「もうだめなので神経を抜きます」と言われ、つまりその歯は死ぬということだと思うと涙が出た。麻酔が切れてきているけれど、この痛みは悼みなのだと思うことにする。

いままでありがとう、わたしの歯。あなたの根元から先はもうしばらく生きて、擦り減ったり黄ばんだりぐらついたりしながら土を噛んで歩きます。

今日はいつになく空がまぶしい。
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