2013年01月24日

第一夜のこと、第二夜のこと少し

 「ありがとう」から言わなくてはいけないと思うのだけど、なぜだか、あまり「ありがとう」という気分ではない。それよりも「いい夜だったねえ」と笑いかけたい。来ていただいた、ということ以上に、あの時間を分け合ったということが、無性に誇らしい。あっ、でも、もちろん入場料はいただきました。それについては、やっぱりありがとう、か。

 演奏が終わって、二階の楽屋へ戻って来て、すぐにゆにさんが笑いながらソファに飛び込んだ。ゆーきゃんの後ろで演奏するのは、ほんとうに大変なのだ。難しいプレイは何も要求されないはずなのに、どんなテクニカルなバンドよりも疲れるらしい。かく言うぼくは、ゆーきゃん以外をやったことがないから、本当はよくわからないんだけど。

 帰り道では、田代くんと「あと三曲くらいやりたかったですね」なんて話していた。もうちょっと演奏したかった、なんて思ったのも、生まれて初めてかもしれない。それほど楽しかったんだと思う。

 なぜかアキクボが「こんないい夜、もっとお客さんが来るべきなのに!」と、ちょっと怒っていた。いや、それはぼくの不徳の致すところで...いつもアキクボは、ぼくのかわりに憤慨してくれるのだ。友情と言うかなんというか、でも、とてもありがたい。でも、あの日のキツネの嫁入りこそ、もっとたくさんの人に見てもらいたかったなあ。ごめんよ。以外にも磔磔は初めてだったという彼ら、いままで観たなかでいちばんクリアな音像で、プログレッシヴな楽曲とタイトな演奏が見事に引き立っていた。またあそこでやってほしいな。

 ステージ上でもちょっと触れたけど、SAKANAの西脇さんには『ひかり』以来、リリースのたびにコメントをいただいてきた。『あかるい部屋』はあえて誰にもコメントを求めなかったのだけれど、その代わりというか、ようやく京都でSAKANAと共演することができた。七年ぶり、くらいだろうか。ポコペンさんも西脇さんも、いつお話ししても本当に素敵な空気。音楽はさらに言うまでもなし。聴きたい曲も聴けて満足。いつまでも目標‐いや、いつまでもただのファンです。

 『あかるい部屋』発売記念公演、一夜目からこんな愉快な気持ちになってよかったのだろうか、と、あれから四日経ったいま、すこし不安になったりもしている(損な性格!)うちに、もう第二夜がすぐそこだ。

2013年1月26日(土)名古屋k.d.japon
http://www2.odn.ne.jp/kdjapon/

共演 YOK / シラオカ

開場 18:00 / 開演 18:30
前売 2,000円/ 当日 2,500円 (ともに1ドリンク代別途)

 ゆーきゃんバンドは今回から、田辺玄(WATER WATER CAMEL)さんがギターで参加してくれます。もちろん森ゆに / 田代貴之 / 妹尾立樹の三人は引き続き。ゲストは一昨年のアルバム『Days With Hearts』がめちゃくちゃ素晴らしくて(夏はこれを聴いて乗り切った)いつか共演したいと思っていたYOKさんと、『ロータリー・ソングズ』のレコ発の時も出てくれた‐というよりいつもお世話になりっぱなしのシラオカ。会場は、名古屋といえばハポンしかありません。またも素敵な夜になるよ。予約は<youcan[at]h2.dion.ne.jp>まで!!
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2013年01月23日

今日

レコ発のことを書こうと思っているのですが、まとまった時間がとれずにいます。
今夜あたり書けたらいいのですが。

ところで、本日1/23(水) 24時からα-STATIONに出演します。
おなじく京都のSSW、ハンサムケンヤ君がパーソナリティをつとめる番組<Radio Handsome>のゲストです。

直前の告知でごめんなさいね。
番組のブログはこちら。
http://fm-kyoto.jp/blog/radio_handsome/

お時間のある方は聴いてみてください。
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2013年01月17日

メモ:2013年1月17日

 本当のことを言うと、2011年にやった二回のレコ発シリーズ−−シグナレスと『ロータリー・ソングズ』のリリースパーティ(自分でこの言い方もするのもどうかと思うんだけど)を−−で、ちょっとうんざりはしていた筈なんだ。自分で会場を押さえ、ゲストをブッキングして、タイムテーブルも組んで、宣伝して、、、自分で自分を祝うためのお膳立てなんて、なんて馬鹿馬鹿しい!と思っていた。

 でも『あかるい部屋』を録音したあとに、車の中で田代くんがふと漏らした「俺、このメンバーでレコ発やるの楽しみだな!」というつぶやき、それから、しばらく考えて、で、やっぱり今度もやることにした。田代くんとゆにさんは東京にいて、りっきーとぼくは京都、そして玄さんは山梨。「発売記念」みたいな建前がないと、なかなか集まれない。それだけでも機会を設ける価値はあるような気がしたんだ。そして、あのレコーディングの空気が、今度はべつの街で、べつの部屋でもう一度立ち昇るとしたら、それがどんなに素晴らしいことだろう、とも思った。
 だから、今回は「リリースパーティ」じゃない。うまくいえないけれど、ゲストを選んだ基準も、そこにある。ぼくはSAKANAを聴いて育ったと言っても過言ではないし、キツネの嫁入りは盟友だと勝手に思っている。でもそれにも増して、ただただ、あのあかるい部屋で同じように鳴っていてほしい音楽を考えただけの結果がこのラインナップだ。彼らはいつも通りの素敵な演奏をするだろう。それでいいと思っている。逆説めいているけれど、それが特別になるとみんな知っているはずだから。

 昨日、東京でリハをした。リハといっても、ゆにさんの家に田代くんとぼくが押し掛け、ちいさなスピーカーからベースとピアノを出力し、ギターと歌はそのままアンプラグド、新曲のアレンジをつめて、忘れていた曲を思い出して、ゆにさんが作ってくれたおでんを食べてビールを飲んで笑って帰っただけ。そしてさっきFacebookのメッセージでりっきーにタイムテーブルとセットリストを送った。我ながら今頃かよ!と思ったけれど、りっきーからはすぐに「了解しました!楽しみ!」と帰ってきた。そう、そういうことだよね。ただ楽しみなんだ。みんなも楽しんでくれたらいいなと思う。
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2013年01月15日

一月十四日 東京はあまりにも雪だった

 なにはともあれ、昨日の下北沢lete、せっかく来てくださったお客さんにお詫びしなくてはなりません。

 雪の中、交通機関のダイヤが乱れる中来てくださったこと、たいへんありがたく思います。にもかかわらず間に合わなかったばかりか、一曲でも二曲でも聴きたいと思って待っていてくださったのに結局姿を見せることすら叶いませんでした、こころからお詫びします。

 予定時間に遅れること七時間半。首都高が通行止めになってしまい、東名高速の大和というバス停で急遽降りて小田急に乗り換えたのですが、下北に着いたときには午前零時前でした。とくに最後の三時間は数センチずつしか動かない硬直っぷり。運転手さんが次のバス停では乗り換えできるから、というアナウンスをしてくれてから、どのくらい待っていたでしょうか。lete店主の伸太郎さんと田代君に電話して「九時には着けると思う」と言ったのが九時半に、十時になり、十時半になり...一日移動に費やしただけの一日、ほとほと疲れ果てました。

 とはいえ結果として、ぼくが昨日来てくださった皆さんの時間泥棒になってしまったことは否定しようがありません。あのとき厚木で−ひとつまえのバス停で−降りていたらスタートに間に合ったかもしれないと思うと、自分の情報収集力のなさと判断の鈍さに舌打ちしたくなります。たぶん今夜には伸太郎さんを通じてぼくからの謝罪のメールが届く筈です。時間は戻らないけれど、連休最後の夜を埋め合わせるものは持っていないけれど、せめてぼくの時間を費やしたもので、償います。

 ライブをキャンセルしてしまったのは、いったい何年ぶりだろうかと思い出してみるのですが、どうも記憶がはっきりしません。わりとめちゃくちゃと言っていい程にタイトなスケジュールであちこち飛び回っていますが、これまでお客さんに(すくなくとも到着時間のことで)これほどの迷惑をかけたことはなかったように思います。飛行機で東京→福岡のダブルヘッダーもやりました。leteでは何度か同じように交通事情で遅れたことはありましたが、それでもこんなふうに話にもならない事態には陥りませんでした。雪は見慣れているし、普段は歩いてどこへでも行くし、簡単に言えば油断していたということに尽きるでしょう。東京の高速道路が雪でどうなるのか、雪の渋滞がどんなに酷い有様になるか(事故処理車がひっきりなしに行き交っていました)、天気は誰のせいにもできず、だからこそ自分で気をつけるしかないのだということ...とにかくあまりに多くを思い知らされた十三時間でした。まだしょんぼりしていますが、そんななかでも、来月のオルグも東北も気をつけなくてはということは思っています。

 次回のleteは今回の雪辱を期してロングセットでのぞみたいです。聴かせたい新曲もたくさんあったのです。まだ日程は決まっていませんが、追ってお知らせしますね。
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2013年01月04日

『あかるい部屋』リリース記念ライブ 続報

年が明け、レコ発ツアーが近づいてきました。
先日お知らせした東・名・京に加えて、東北での三公演が決定しています。

2013年1月20日(日)京都 磔磔http://www.geisya.or.jp/~takutaku/
共演 SAKANA / キツネの嫁入り
開場 17:00 / 開演 18:00
前売 2,000円/ 当日 2,500円 (ともに1ドリンク代別途)

2013年1月26日(土)名古屋k.d.japonhttp://www2.odn.ne.jp/kdjapon/
共演 YOK / シラオカ
開場 18:00 / 開演 18:30
前売 2,000円/ 当日 2,500円 (ともに1ドリンク代別途)

2013年2月3日(日)東京 南池袋ミュージックオルグhttp://minamiikebukuromusic.org/
共演 王舟 / よしむらひらく
開場 18:00 / 開演 18:30
前売 2,000円/ 当日 2,500円 (ともに1ドリンク代別途)

2013年2月9日 (土) 仙台 FLYING SON http://flyingson.com/
mu×齋藤駿介 presents【やわらかい家路】
共演 よしむらひらく/ CONTRAIRE / mu×齋藤駿介 and more..
開場 18:30 / 開演 19:00
前売 2,000円/ 当日 2,500円 (ともに1ドリンク代別途)

2013年2月10日(日)山形 蔵オビハチhttp://ojisho.com/2010kura_web/kuraindex.html
ZOMBIE FOREVER presents vol.52 【DAY OF FUN SURPRISE】
共演 ahme(柏) / アベシュンスケ(band set) / QURAGE and more...
開場 / 開演 / 料金 近日発表
*山形名物「芋煮」付き!!

2013年2月11日(月・祝)弘前 Robbin's Nest (http://robbins-nest.jp/)
nor thmall lab×デイトリッパー presents【unknown songs】
共演 うきぐも(青森) / 鳴海徹朗 / 聞こえないふりをした
開場 / 開演 近日発表
前売 1,500円/ 当日 2,000円 (ともに1ドリンク代別途)

 かねてからいろんな街に行きたい、と言っていますが、東北はやはり京都から距離もあり、レコ発という大義でもなければ足を伸ばしづらく―とくにバンドでは尚更―だからこそどうしても(個人的な思い入れも含めて)訪れなくては!という気持ちがありました。
 ありがたいことに、仙台、山形、弘前ともに、地元の素敵なミュージシャンやレーベルの方々のサポートを受けての開催となります。みんな音楽を続けて行くなかで幸運にも繋がることのできた同志たちです。共演も非常に楽しみ。お客さんとの出会いは言うに及ばず、あらゆる場面で、ちいさく、あたらく、かけがえのない邂逅があればいいと思います。

 ご予約は各会場/オーガナイザーほか youcan@h2.dion.ne.jp でも受け付けます。日程、会場、お名前と枚数を明記してください。あっ、引き続きオファーも大歓迎です!どうぞよろしくお願いします。
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2013年01月03日

エルダー・ヴィレにて

 母方の祖母が、氷見市の余川というところにあるケアハウスに入っている。せっかく帰省したということで、会いに連れて行ってもらった(ぼくは車の運転ができない。車がないとほとんど生きていけないのは、ほとんどの地方都市の例にもれず...)。

 一行は両親と、従妹、そしてぼく。けっこうな山あいの道を十分ほど上った末に到着した、エルダー・ヴィレという看板の出ている施設。
 祖母は食堂にいた。車いすに乗り、他の入居者たちと円を作るようにして集まっていた。あとで分かったのだが、リハビリ的な「遊び」を行うために集合していたようだ。毎週ここに通って来ている母(祖母には二女にあたる)が声をかけると、それまで虚ろだった表情がにわかに笑顔になった。車いすを押して、談話室へ移動する。ソファに座った娘と婿と孫二人の顔をかわるがわる見て、にこにこ笑っている。
 記憶が日々おぼろげになりつつある彼女は、ぼくのことを思い出せない。誰やったかねえ、どこのうちやったかねえ、と自分の娘に向かって尋ねる。つまり誰かわからない人の母親に身元を確認しているのだ。答えられて、いったんは思い出すものの、三分後にはまた尋ねることになる。ずっと一緒に暮らしていた従妹のことはよく覚えていて(たくさん居る孫のなかで、いちばん年下、唯一の女の子だった郁ちゃんを、祖母はとても可愛がっていたのだ)、保育園で働いている彼女に向かって、大変やけど何でも頑張られ、と諭す。父に向っては、遠いところようこそ、会えてうれしいです、ありがとう、を何度も何度も繰り返した。そういえば、祖母はことあるごとにぼくに向かって、あんたのお父さんは親切でいい人やから大切にしられ、と言っていたっけ。

 二十分ほどの面会時間に、彼女は何度おなじことばを使っただろうか。数種類の定型文をリフレインさせ、そのあいだにいくつかのアドリブが混じる。ほとんど閉じかけた眼をぱちぱちさせ、歳をとるとみっともなくてねえなど愚痴めいたことを言いながら、その次の瞬間にはありがとう、ありがとうと言いながら笑う、そんな会話のリズム。
 こころは持続していて、ことばは、その持続のなかから毎回あらたに湧いてくるのだろう。だから何度も、同じことばが飛び出してくるのだ。そして、こころは、ずっと続いている。裕福な旧家に生まれて、クリーニング屋に嫁ぎ、タバコ屋にも手を出し、働いて働いて四人の子供を全員大学へ進学させ、そのうち娘三人を嫁がせ、先祖供養を大切にし、歳をとってからも友達づきあい(近所づきあいではない)を欠かさず、掃除が苦手で、小学生の孫に向かって「あんたはいい人やねえ」とか「世のため人のために生きなさいよ」などと言い、大きくなった孫の結婚式では「こんなおばあさんが式場に居たら、華やかな会場がみっともなくなる」とロビーで待っている、そんな彼女のこころは、たとえ表面の感受性がすり減ってしまっても、ことばを生み出す土壌が削られてしまっても、きっとその奥深くでずっと流れ続け、いまも堆積し続けているはずだ。

 ぼくは普段から、ことばを信じすぎている。いや、もしかするとその逆、信じなさすぎている。ことばはこころの過不足ない乗り物ではないし、こころを込めればことばが通じるというのも間違いだ。話せば話すほど遠ざかることもある。伝えたかったことばの真意が「いま」は空回りしても、何十年もたった後にようやく届くことだってある。(繰り返すが)こころは日々移り変わりながらも途切れることのないひとつの持続で、ことばはいつもそこからやって来て、別のこころの持続に着地しようとしては、空中で燃え尽きてしまったり、目測を誤って不時着したり、している。
 ケアハウスで暮らす祖母にはもう、おそらく数百種類(もしかすると数十種類)のことばしか残っていないのかもしれない。けれど、だからこそ彼女の試みる発語のなかには、最後に残ったことばの後ろにあるこころが浮かび上がってくるような、不思議な空気の流れがあった。

 従妹が午後四時すぎの特急で大阪へもどらなくてはいけないという。そろそろお暇しましょうかと立ちあがりかけた一行に向かってまたひととおり、会えてうれしい、と笑いかけたあとで、祖母は母に尋ねた。このひと、誰やったかねえ。母がぼくの名を告げる。祖母は、ああ、とうなずいて、また母に言う。

 そろそろこのひとも就職せんとねえ。

 ほら、ことばは、いつだって爆弾なのだ。彼女は笑っていた。

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2013年01月01日

或る翼に

 小さなころ、斉藤隆介というひとのお話が好きで、全集を買ってもらって読んだ。『モチモチの木』や『ベロ出しチョンマ』の作者といえば、分かる人もいるだろうか。モチモチの木は教科書にも載っていたような記憶がある。

 A4ノートよりも大きな本で、それなりにかさばったし重みもあったのだけれど、よっぽど気に入っていたのだろう、あちこちに持って行って読んだ(なぜか遠足のリュックにも入れていた)。随分汚したりもした。一冊全部を読み切らないのに別の巻を読み始めて、読み散らかしたりもした。その結果、全集は実家のあちこちに(応接間や納屋にさえ)放置されているらしい。ふと読み返したくなって母親に尋ねてみたのだが、十冊ほどあったうちの一部しか見つからなかった。でも一冊は姪のところに行っているらしく、それはそれでよいことだと思う。
 何度も何度も読んだので、話の筋はだいたい覚えているし、印象的な一行やセリフがふと頭をよぎれば、歩きながら涙があふれてしまったりもする。夜のうちはいいのだけれど、人ごみの中でそういうことがあるととても恥ずかしい。

 ひばりの出てくるお話が二篇ある。一篇はずばり『ひばりの矢』というもので、横暴な黒雲おやじがひばりたちの巣をふんづけるので、憤慨した若いひばり「いちろうじ」がついに立ちあがり矢を射かけるのだけど、すぐに叩き潰されて、それでもめげずにじろうじ、さぶろうじ、と挑戦者がつづき...というお話。もうひとつの短編は『天の笛』という題で、終わることのない冬に覆われてしまった世界を何とかしようと、ひばりが分厚い雲を突き破って太陽のかけらを取りに行く...というストーリーだ。前者はちょっと人懐っこい(実はシリアスなテーマを扱っているのだけれど)語り口がひどく魅力的で、後者は実にけなげで、痛切で、美しい物語。
 道徳の教科書はあざとすぎて嫌いだったけれど、なぜかこの人の書くものは、たとえそこに啓蒙的なものがちらついても気にならなかった。それが「物語」として充分に美しく、強く、面白かったからなのだろうが、それはさておこう。とにかく、このふたつのひばりの物語はいつのまにか、ぼくの書くものの主要なモチーフになっている(いちばん直接なのはシグナレスの”parade”で「飛び立つひばりのように 太陽のかけらをくちびるに」とある。それ以外にも彼ら=ひばりたちのことを下敷きにした歌詞は結構多い。物好きな方は探してみてください)。

 で、新しく書いた曲にもまた、ひばりが現れた。

 前日の夕方に降りだした冷たい雨が夜半を過ぎて雪に変わり、明け方すこし積もって、やがて止んだ。あくる日は寒いけれどよく晴れていた。雪は解けた。冬の太陽はあまり高くまで上がらない。西陣のとある路地に入ると、濡れた舗道が南からの陽光を跳ね返し、まるで光の上を歩いているようだった。そのとき一つの響きが、ふわりと降って来た。事務所へ向かい、仕事も約束もそっちのけでギターを抱えて、リフレインに変えた(確かめてみると、それはオープンDチューニングだった)。メロディと歌詞は一緒に出てきた。構成はAメロとサビだけ、二番までしかない簡単な曲になった。三年前のぼくなら、絶対書かないようなやつだ。
 ひばりという単語は、出てきていない。でも、これはいちろうじとじろうじとさぶろうじのことで、太陽に焼け死んだひばりのことで、こないだ久しぶりに会った土門(結婚して今は野田か)の押していたベビーカーのことで、姪(すみれ)と甥(コウスケ)のことで、酒場で会って原口統三の『二十歳のエチュード』を貸したバヤシという青年のことで、そしてぼく自身やきみのことで――いや、これ以上書くと野暮になるからやめておこう。

 大晦日、正確には年が明けて最初のステージ、アバンギルドでこのうたを歌った。それまでにずいぶん飲んでいたし、夜が深すぎたこともあってサビの出だしの高い部分がちょっとフラットしてしまったのが反省点。けれど、2013年のはじまりにこの詩を歌えたことはとても意味のあることだと思っている。もっとブラッシュアップして、早く一人前の曲に仕上げたいな。

「或る翼に」

雪どけに濡れた細い石畳を覆い尽くす
あの光の中を歩こう
手袋をなくしてかじかんだ指も
いまはただ伸ばして 光の海に浸そう

いつかはおまえもちいさな翼で
嵐の空を飛ぶ日が来るだろう

雲の切れ間めがけて投げつけたことばたち
叩き落とされても春を待つ種に変われ

目覚めの季節に眠ってしまった
いつかはおまえもちいさな翼で
今日より 明日より 未来の空を
眩いうたなど紡いでゆくだろう


 ニュアンスが冬の終わりっぽくも思えるのは「雪どけ」という単語で始まるからだろうか。春を待つ曲が多いように思われるがその実、冬はけっこう好きだったりする。アバンギルドではもう一曲「ルウナ」という新曲もやってみた。いままで書いたものの中でたぶんいちばん音程が高い。これも冬の夜道を歩いていて、できた。ぼくの創作の神経は、歩調と同じ速さで鼓動しているのかもしれない。

 ちなみに、アバンギルドの後はKYOTO MUSEに行き、午前4時にB’zの”ALONE”を短パンと袖を切り落としたTシャツ姿で熱唱する、というスカムなステージを披露しました。ピアノを弾いてくれた植木くんありがとう。最後は頼りになるミュージシャンたちが飛び入りでバンド編成になり、大団円で終わるという謎の展開。2013年は(も)愉快な年にしたいです。

posted by youcan at 21:34| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする