2013年02月20日

2月11日夜のこと

 弘前でのライブのあと、メンバーはみんなホテルに帰って寝るといったけれど、なんだか名残惜しくて、飲みに連れて行ってもらった。

 メンバーは、アンリと、鳴海徹朗くん。二人を載せて、メンバー一同まず車でホテルに戻り、再出発。鍛治町というところが飲み屋の並ぶ地域だそうで、鳴海くんに先導してもらう。黒石市在住の彼はラジオの出演などでよくこのあたりに通うのだとか。折しも雪は止んでいたけれど、夕方からひっきりなしに降り積もっていたから、あたりはもう真っ白だ。おなじ青森県内でも、本来なら弘前は青森市ほど積雪はしないという――けれど今年は例年にないほど降っているらしい。アンリ曰く「ゆーきゃんが、雪を連れてきた」そうだ。

 東北の雪は、驚くほどにさらさらしている。空から落ちてくるとき、あたりに積もってゆくとき、ぼくの見慣れた北陸の、田んぼの真ん中や市街に落ちてくるそれとは違った種族のようで、まるで水気がないようにさえ見える。東北の雪にはほとんど無邪気だ。邪気がないということは、それだけ残酷ということでもあるだろう(逆に北陸のぼたん雪はその重たさと湿っぽさゆえに、意地悪でもあるけれど、どこか温かみを残しているともいえる)。冷たくて、美しくて、そして恐ろしい、もしも雪女がいるなら、やっぱり東北なのだろうと、ライブ中、robbin's nestの大きなガラス窓の向こうに吹き荒れる雪を見ながら思っていたのだ。
 
 鍛治町には飲み屋がたくさん軒を連ねていた。けれど日曜日の夜ということもあり、そのほとんどが店を閉めた後だった。町はすっかり静かだ。車が数台行くけれど、雪に吸い込まれてほとんど音も立てない。スナックのようなところから年配の男性と若い女性が出てゆくのを見た。何か会話をしている、でも聞き取れない。声のトーンはそれほど低くないのに、ことばのせいか、雪のせいなのか、ぼくにはわからない。マエケン(前野健太くん)が曲の題材にしたという純喫茶のお店の前を通る。深夜だというのにお店は開いていた。ここでリッキーならためらわず入るのだろう(仙台でも山形でもいい喫茶店を見つけるために散歩をしていたほどだ。次来たら教えてあげよう)。まだ飲み足りないぼくらは別の店を探す。
 結局入ったのは「心」という赤ちょうちんを付けたお店。北国の冬景色を扱ったドラマやCMで、ステレオタイプとして扱われそうなほどの店構えだった。中華そばがメインのようだが、ほかにも肴を出してくれる。何時までですか?と尋ねると、どうやら特に決まってないらしい。三時くらいまでなら大丈夫、と店主は言ってくださった。結局四時過ぎまでお邪魔してしまったのだが。

 アンリは京都での某レコ屋時代の後輩で、ボロフェスタのスタッフでもあった。いまは青森に帰って、フリーペーパーを作ったりイベントをやったりしている。今回もnor thmall labの佐藤さんと一緒に企画してくれた。ちなみにこの日は青森から電車で来たのだという。始発を待って電車で帰りますと事もなげに言う彼女だったが、よく考えると河原町⇔梅田間の阪急電車とは勝手が違う。十分に一本、というわけにはいかないだろう。ましてやこの積雪だ。所要時間だってときに大きく変ってくるのではないか。心配になりつつも、相変わらず彼女らしい呑気さだとも思った。
 
 りんご農園で働いている鳴海くん、冬季は新聞配達所に仕事が変わるそうだが、この日の次の月曜はたまたま休刊日で、ライブの後とんぼ返りで黒石に戻る必要もなく、近くにカプセルホテルをとっていた。なんだか話したいことがいっぱいあったはずなのに、彼のうたを聴いているとそれだけでよくなってしまって、どうでもいいようなとりとめのない会話しかしなかったような気がする。でも、この人の歌の中には、この人の生活も、願望も、だいたいが仕舞われていて、それでぼくは充分だったんだろう。あの安心感はそういうことなんじゃないか。

 田酒を飲みながら(この、青森のお酒が大好きなんだけど、お酒のすばらしさをことばにする技量をぼくは持っていない。田酒がいかに美味しいかについては、どこか別のグルメブログなどを参照してください)アンリと鳴海くんのやり取りを聞いているうちに眠くなってしまって、うとうとして、気付いたら中華そばが頼まれていて、お会計も済まされていて、鳴海くんをホテルまで送ろうと外に出た。路肩に除けられた雪は冷え固まって氷山のようになっている。道路はアスファルトの上に踏み固められた雪でもう一層ぶんの舗装を施しているかのようだ。この白い道路に映し出される、北国特有のオレンジ色の街灯が作る陰影は、ほんとうに美しい。ホテルの前でアンリと別れて、誰もいなくなった道をぼんやりと眺めていると、除雪車が二台やってきた。一台はおもに道をさらえ、もう一台はざっくり積まれた雪を邪魔にならない場所に動かしている。一晩中、いや雪には昼も夜もないだろうから一日中、この車たちは出動し続けているのだろうか。偉大だと思った。雪国に王様が必要になるとしたら、一も二もなく除雪車のことを推挙したい。

 弘前の戦利品はライブ前にイトーヨーカドーで買った白いスニーカー。まったく雪国仕様ではない。マジックテープで留める。おじいちゃんの靴みたいとからかわれたりもするけれど、結構気に入っている。こんど会った人には見せてあげます。


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2013年02月09日

第三夜と、今日から三日間

 昨夜の昼バスで東京へやってきた。最近月の三分の一くらいは田代邸にいる気がする。ほとんど居候だな、これ。

 久々にやって来た池袋の雑踏に戸惑ったこと、なぜかハウリングが収まらなかったサウンドチェック、本人も「ここ最近でいちばんの出来だった」というよしむらひらくバンド、王舟が45分の持ち時間なのに30分強しかやってくれなかったこと(「もっとMCするかと思ってたけど、意外と喋りませんでした」なんて言っていたけど、きっと気を使ってくれたんだろう)、久々に会った友人たちがちっとも変ってなかったり、都市レコードのコスさんが来てくださっていて驚いたり、術ノ穴のクッシーさんが来てくれるとやっぱりとても嬉しいと思ったり、いちばん最後にぶっつけで王舟と一緒にやった「虹」だったり、これがぜんぶ日曜日にあったことなんだというのも不思議な気がする。
 不思議といえば、ライブが終わったあと、とにかくめちゃくちゃに脱力したのは何故なんだろう。田代くんも玄さんもりっきーも、口々に「疲れた」と言っていたな。初めての森ゆにさん抜きのバンドセットは、磔磔やハポンにあった高揚とはちがう、素潜りのように深いところへ向かってゆくような感覚。
 聴いているひとにはどう届いたのか、わからないけれど、終演後に『あかるい部屋』を買ってくださったかたがたくさんいてくれたという事実は、すくなくともあの晩がとてもいい空気だったということの小さな証ではあると思う。買ったばかりのICレコーダー(フンパツして、いいやつにした)で録音したものからも、なんとなくそれは伝わってくる。

 あ、そういえば、京都に戻ったくらいで、磔磔でのライブを撮影してくださっていた柳田さんから、映像がひとつ届いていた。vimeoに上げていただいたので、お時間のあるときに観てみてください。

http://vimeo.com/58550046

 全編を通じて撮ってくださっていたとのことなので、おもわず「残りも欲しいです!」とお願いしてしまった。名古屋も録音しておけばよかったなあ。今日からの東北の三公演は全部記録しておこうと思う。なにしろ東京、山梨、京都とばらばらに住んでいる五人、それぞれの活動もあるし、なかなか揃う機会のないバンドだから。なのにあの演奏の妙、すごいよねえ。ゆーきゃんは置いといても、四人を聴きにくるだけでも価値はあるよ。

 さて、これを書いたら最後の準備をする。玄さんの車と待ち合わせて、ゆにさん(祝・快癒!)、りっきーと合流、仙台へ。田代くんは高円寺のライブが終わってから新幹線で飛んでくる。間に合いますように...!
 ずっと心待ちにしていた東北三県のツアー。各地のオーガナイザーの協力があって実現した。久しぶりのみんなとの再会も、初めての出会いも、とても楽しみにしている。

 今日の仙台、もしこれを読むのが奇跡的に間に合って、行きたいかも、というかたは直接<youcan[at]h2.dion.ne.jp>宛にメールください。山形と弘前の予約はまだ受付中です。

■2013年2月9日 (土) 仙台 FLYING SON (http://flyingson.com/
mu×齋藤駿介 presents【やわらかい家路】

共演 よしむらひらく/ CONTRAIRE / プリマドンナ / mu×齋藤駿介

開場 18:30 / 開演 19:00
前売 2,000円 / 当日 2,500円 (ともに1ドリンク代別途)


■2013年2月10日(日)山形 蔵オビハチ(http://ojisho.com/2010kura_web/kuraindex.html
ZOMBIE FOREVER presents vol.52 【DAY OF FUN SURPRISE】

共演 ahme / アベシュンスケ(band set) / QURAGE / otogi / SHINYA TAKATORI

開場 13:00 / 開演 14:00
料金 オビハチ限定「芋煮」付チケット 2,000円(残りわずか)/ 通常前売 1,800円
*小学生以下入場無料
*開演時間が早いのでご注意ください。終演予定は18:00です。

チケット予約
info@zombie-forever.com(担当:森)


■2013年2月11日(月・祝)弘前 Robbin's Nest (http://robbins-nest.jp/)
nor thmall lab×デイトリッパー presents【unknown songs】

共演 うきぐも/ 鳴海徹朗 / 聞こえないふりをした

開場 17:30/ 開演 18:00
前売 1,500円/ 当日 2,000円 (ともに1ドリンク代別途)

チケット予約
northmalllab@yahoo.co.jp


ご予約の際は【お名前(ふりがな)】【チケット枚数】【当日連絡の取れるメールアドレスまたは電話番号】を明記してください。予約を確認するメールを返信させていただきますので上記アドレスのメールを受信できるように設定してください。
posted by youcan at 07:18| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々、時々雨 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2013年02月02日

第三夜、二月三日(日)南池袋ミュージックオルグ について、わりと大事なお知らせ

 気がつけばもう明日。それはもう素敵だった名古屋のことも書きたかったんですが、京都に戻ってからのあわただしさは一体何だったのでしょう。シラオカとYOKさんについては、落ち着いたらまたゆっくり触れたいです。

 ひとつ、お知らせがあります。

 流行っているなあと思っていたんですが、なんと、森ゆにさんが、インフルエンザに罹ったそうです。お医者さんから2/6まで外出禁止を言い渡された、と、とても申し訳なさそうなメールが来ました。
 ゆにさん、くれぐれも大事にね。とくに、あなたも歌う人なんだから。

 というわけで、明日の『あかるい部屋』発売記念ライブは、ゆーきゃん/田代貴之(bass)/妹尾立樹(drums)/田辺玄(guitar,etc...)の四人編成です。よく考えるとこの組み合わせは初めてだ。玄さんにはアルバムに入ってない曲でも弾いてもらおうと思います。どんなふうになるのか、明日のサウンドチェックまで誰も知らない、それもまた楽しみだったり。

 ベストメンバーでのライブは、また次回にお預けです。東京での追加公演が決まった、ということになるのかな。今回は残念ではありますが、また一つ増えたこの約束は、けっして嫌なものではないかと。

 とりあえずは東京のみなさん、東京近郊のみなさん、明日ミュージックオルグで会えると嬉しいです。どうぞよろしくおねがいします。


2013年2月3日(日)東京 南池袋ミュージックオルグ

共演
王舟 / よしむらひらく

開場 18:00 / 開演 18:30
前売 2,000円/ 当日 2,500円 (ともに1ドリンク代別途)

予約
ミュージックオルグ 予約フォーム
posted by youcan at 10:52| Comment(0) | TrackBack(0) | お知らせ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする