2014年09月01日

京都

 今日はいきなり引用から始めます。

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僕は此の世の果てにゐた。陽は温暖に降り洒〔そそ〕ぎ、風は花々揺つてゐた。
 木橋の、埃〔ほこ〕りは終日、沈黙し、ポストは終日赫々〔あかあか〕と、風車を付けた乳母車、いつも街上に停つてゐた。
 棲〔す〕む人達は子供等は、街上に見えず、僕に一人の縁者〔みより〕なく、風信機〔かざみ〕の上の空の色、時々見るのが仕事であつた。
 さりとて退屈してもゐず、空気の中には蜜があり、物体ではないその蜜は、常住食すに適してゐた。
 煙草くらゐは喫つてもみたが、それとて匂ひを好んだばかり。おまけに僕としたことが、戸外でしか吹かさなかつた。
 さてわが親しき所有品〔もちもの〕は、タオル一本。枕は持つてゐたとはいへ、布団ときたらば影だになく、歯刷子〔はぶらし〕くらゐは持つてもゐたが、たつた一冊ある本は、中に何にも書いてはなく、時々手にとりその目方、たのしむだけのものだつた。
 女たちは、げに慕はしいのではあつたが、一度とて、会ひに行かうと思はなかつた。夢みるだけで沢山だつた。
 名状しがたい何物かゞ、たえず僕をば促進し、目的もない僕ながら、希望は胸に高鳴つてゐた。

 しかもいまどき、たいがいな年齢にもなって中原中也を持ち出してくるぼくの万年書生気質を笑ってください。
 ですが、すこし遅咲きの青春時代を、赤貧と無名を背負いながら、あの街の輝かしい泥濘のなかで過ごしたぼくにとっての<京都>もまた、どこかこの詩の景色と似ているなあと、ふと思ったのです。
 

 くるりが北陸ツアーに来てくれたので、金沢・富山と二日続けて観に行きました。久しぶりに岸田くんや佐藤くん(もちろんファンファンも、ツアーメンバーのカンジくんと洋子さんともです)ゆっくり話せる時間があって、思わず翌日のことも忘れてふらふらになるまで飲んでしまったりした後で、ぼくが彼らにどれほどのものを貰っていたか、あらためて実感しました。ライブはもちろん素晴らしく(演奏は云うまでもなく、新旧織り交ぜたセットリストも非常に感慨深かった)、フロアのど真ん中で爆踊りしたり諸手を挙げて喜んだり大口空けてシンガロングしたりしていたら、カンジくんに「富山に帰っても(メトロで遊んでた頃と)なんも変わっとらん」と笑われましたとさ。
(実はこの後に続けて、まるで音楽雑誌の投書欄のような「くるりと私」的長文をしたためたのですが、恥ずかしくてウェブ上からは消しました。いま、「王様の耳はロバの耳」的な紙きれだけが部屋に残っています。さほど面白くもないですが聞きたい方は酒の席ででも。)




 お盆休みを利用して、メロウくんとアバンギルドでライブをしました。古い相棒と古巣に帰ってきたような感覚。ライブ中のぼくにはメロウくんの絵が見えません。でも、彼がぼくの後ろに投影する線を、色を、にじみを、物語を、どういうわけか感じることができるのです。文字通り<背中を任せられる>メロウくん、半年ぶりに会っても話すことは全然変わらないですし、河原でビール飲んだりアイス食べたり、まるで昨日も会っていて、昨日とおなじように振舞っているかのような錯覚を覚えました。ライブのほかにも、夏の京都を歩き、久しぶりの友人たちに会い、音楽の話からどうでもいい話までを塗り重ね、明け方ひと眠りしてからまた飲みに行ったりなんかもして、いつしか自分の帰る家をちょっと忘れかけたり。そういえばこの一方通行の多い1220歳の街は、ときどきふと磁場がずれたりするんでした。あぶないあぶない。

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(写真はフォトグラファーの勝俣信乃さん。わざわざ神奈川から来て下さった彼女もまた、この街なくしては出会わなかった人です。)


 8月最後の土曜日は、nanoボロフェスタでした。ボロフェスタについては何度も書いていますし、何度書いても書ききれないので困ってしまうのですが、一日しか居られなかった(でも去年はゼロ参加だったので、ましになったのかな)なりに、とにかくnanoボロフェスタがすっかりボロフェスタだったので、うれしくてうれしくて、田舎のクルマ生活の影響で飲めなくなったビールを無理やり飲みました。お客さんもスタッフも本当に素晴らしかったです。ぼくの演奏はといえば、もぐら君にお願いして、マドラグのトリを取らせてもらったんですが、また例によって夢中になってしまって、出来不出来はほとんど覚えていません。ただ、新曲―その名も「マドラグ」という曲を歌いました。これはナツミさんのことを思って書いたのですが、気のせいか、ただの期待か分からないにしろ、カウンターのあの場所にふわっと何かを感じたのは確か。きっと、それなりに良いライブだったのだろうと思います。そういえば本番前にサウンドチェックをしたら、なんだか楽しくなってしまって、カヴァー曲をいっぱい歌いました。それも含めてセットリストを書いておきます。

■サウンドチェック

1. Cruel War
2. スーパースター
3. Femme Fatal
3. 少年時代
5. 500 miles

■本番

1. Don't think twice, it's alright
2. 0764
3. 夕方の縁石
4. サイダー
5. マドラグ
6. エンディングテーマ
7. Pellicule

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(写真はマドラグ店主・三四郎さんのFBから無断で取ってしまいました。いいですよね三四郎さん、こんどカウンター越しにビール奢りますんで。)


 次、この街へ来るのは10月の終わり―ボロフェスタ本祭です。その後はどうなるか分かりません。ただ、新しい曲が新しい暮らしの中で幾つ出来上がってきても、その景色の中に、その影の中に、その温度の中に、やっぱり京都は在り続けるんだろうと思います。<さりとて退屈してもゐず、空気の中には蜜があり、物体ではないその蜜は、常住食すに適してゐた>―空気は絶えず肺から出たり入ったりしていますが、その中に溶け込んだ蜜は、きっと胸の奥に残り続けて、考え方に影響したり、頻繁に郷愁をもよおしたり、折にふれて感受性を震わせたりして、楽しいことや夢のようなことに弱い人間たちの、遠い土地での新生活を素敵に邪魔し続けるんじゃないでしょうか。これまで私の人生をさんざんに狂わせ、遠く離れたこれからでさえも、相変わらず奇妙な道へと誘ってくれるであろう、あの世界の果ての古都とは、なんと厄介な存在なのでしょうか。ねえ、また還ってくるからさ、お願いだからそっとしておいて欲しいところはそっとしといておくれよ。
posted by youcan at 21:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日々、時々雨 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする