2018年09月30日

These Islands Are Our Islands

 "Atomize"という単語があることを知った。「原子にする」転じて「細分化しばらばらにする」ついには「爆弾で破壊する」という意味までもった言葉らしい。手塚先生が聞いたらどれほど悲しむだろう。
 でも、細分化され、ばらばらにされて、それで終わりというわけではない。ぼくらは原子のままでは生きられないからだ。結びつきを求めて、安定を求めて、全体に紐付けされる自分。網の目の中に固定化された静止画像のような自分。点描画のひと筆のように、共同体の物語とぼくら自身の物語の関係が、いつの間にか逆転してしまう。

 世界が、時代が、ぼくらを押し返しながら要求しているのはそういうことだという気がする。目覚めかけた夢の外、ちっぽけな小魚には立ち入れない水域があり、スイミーの真似事をして口をぱくぱくさせる魚群をもういちどただのちっぽけな小魚に戻そうとするのは鯨や鮫だけではなくて、海流や潮位もまたぼくらに厳しい。ぼくらの中にさえ理想と打算とが入り混じり、展望と言い訳がめまぐるしく入れ替わって、あのとき大きな魚を追い払ったような美しい影を作るのはもう格段に難しくなった。

 ぼくは思う。追い払った大きな魚それ自体が影だったのではないか。
 追い払った大きな魚は、ぼくらの影だったのではないか。
 大きな魚にも正義や必要があったとして、それはぼくらの影のなかに、もうすでに含まれていたのではないか。
 
 あきらめてはいけないと思う。鮫や鯨を追い払うことも、流れや潮に立ち向かうことも、そして自分自身の影をよく見つめていることも、あきらめてはいけないと思う。大きなものはいつだってきみを飲み込むし、大きなものをかたちづくる原子は、つながりを探して迷い込み、かえってatomizeされたきみやぼくであったりするわけだけど、ピノキオがあのモンストロのお腹のなかから帰ってこれたように、何が人間をかたちづくっているのかを忘れなければ、きっと大丈夫なのよさ。



 ところで、田代君に連れて行ってもらったコザの街並みと、幼稚園児後ろ姿を入れた構図がニールヤングの『渚にて』にそっくりだったあの浜辺の景色はいまでもよく夢に出てくる。たぶん一生忘れないだろう。おおきな台風、みんなが無事だといい。


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2018年09月27日

Light Your Fire

躓くことのなくなる日は来ないだろう。わたしたちは毎日、躓きを生きているから。
けれど、くらやみに火の灯る限りひとはその方向に歩いていけるはずだ。

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点灯夫であろう。
たとえ1分でひとまわりする星にうんざりしても、やっぱり灯りを点けることを諦めてはいけない。
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2018年09月26日

lemon tree, very pretty

我が家の檸檬には実がついていない。
鉢植えを買ってきたときには付いていたのだけれど、昨年の秋に切ってしまった。
北陸の寒くて暗い冬をなんとか越え、今年の夏にはせっかく立てた気遣いの支柱も無視して、太陽の方向へ気ままに伸びていった。

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名を捨てて実を取るという言い回しは好きではない。そのくせ、名がそれほど大事だとも思わない。たとえどれほど果汁と香りにあふれた鮮やかな実だとして、なぜか葉の方が愛おしいときもある、というだけの話。

それに檸檬の実は爆弾だ。本好きとしては積まれた上で炸裂されてはかなわない。
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2018年09月25日

新しい人

マイクロフォンは楽器だと思っている。
ステージの上で、ぼくはそれを確かに"弾いて"いる。
それ自体が音色をもち、もしかすると、声をもっている。

なんとなくだけど、プラスチック消しゴムによく似た親近感を抱く。
文字を"消す"ために在るようでいて、じつは何かを描いているそいつ。

間にあるもの、経由するもの、選びとって進めるものたちが信念をもって存在していると安心する。

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posted by youcan at 20:36| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年09月22日

there is a song for you

そらは、何かがそこにないということを示している
日本語で「空白」という何かは、やはり一つの色だという点で正しかったのだと思う
でも、あるいは−そこにあるのは、タトゥーのような何かであるということ
この青に手をひたせば、その痛みで確かめられるのかもしれない

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2018年09月14日

paint it black that will be white and the white will be black but The Blues Are Still Blue

きみは鉛筆ではないから、どれほどいのちを削ったところで、震えのない数直線を引けるようにはならないだろう。それが素晴らしいことだと分かるまで、あとどのくらいかかるのか−声を搾り、塗り重ね、妥協を繰り返して、それでもまだ青色は、青いか。

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posted by youcan at 20:31| Comment(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする