ねえ君、知っているのかい
舗道があんなにも眩しく光るのは 恋人たちの足跡 すれ違った影の涙さ
ペダルのきしむ音から すべてを許す物語までが 絡み合う屋根の上で
出鱈目ばかりが酷くきれい
愛の街角と ここは呼ばれてた ずっと前のことさ 誰も覚えてはいないよ
おかえり 意外に早く君は戻ってきたんだね
いまでもこの街の王様は 相変わらず驢馬の耳さ
崩れかけた時計台を守るため 兵隊が みんなを連れていった
ねえ君、笑えるだろう - 時は もうすでに 過ぎていたんだ
熱いまなざしを歌いたいなんてさ
出て行った君には何か見つけられたっていうのかい?
ほら また ゆっくりと近づいてくる夜の帳 大きな黒い翼
闇におびえる獣たちを 鋭い嘴で逃さない
たとえ俺が最後の一匹でも構わないよ ここはこんなに静かだ
ねえ君、もう一度歌わないか - そう いつかの愛の街角で
風はいつも忘れ物をする 黄昏の宝石たちは夢によく似た夢
水のない側溝で輝き それをじっと見ているまなざしがある
ひげよさらば、悲しみよこんにちは 全部一時のことさ
冒険も迷走も 飢えも渇きも すべてこの上にあり
明日になれば思い出し 明後日になればきれいに忘れて
君たちはまたどこかの星へ出かけていく
でも約束しよう 命あらばまた他日
ただし 絶望だけは ありったけ ありったけ置いていくんだ
土産話のひとつやふたつ かならずポッケに入れておくんだ
ここに吹く風は忘れっぽいから もうしつこく追いかけてはこない
君がもう一度あの眠れない夜を越えたら それが新しい始まりさ
ほらこの俺の ぴかぴか光り始めた目に賭けて
山の向こうに沈んでいくあの大粒の宝石に賭けて
約束しよう、約束しよう どんなに乾いた砂漠でも どんな廃墟の町でも 君のポッケにはもう絶望なんて入っていないんだ
京都で一番好きな通りの名前を挙げろと言われれば、即座に御池通と答えるだろう(白川通も捨てがたいが、より馴染みがあるほうを選ぶと思う)。堀川通との交差点は北東角の歩道が広く取られていて、夕陽がすべすべした石畳に反射するとき、まるで橙色の液体をこぼしたように見える。西へ歩きながら、1分ごとに交差する細い通りの奥行きを確かめ、空を這う電線をたどり、市役所の手前くらいで振り返ると、通りを飲み込むほどの夕暮れが街に降りてきていることがわかる。夕焼けがきれいなのはどこでも同じだとして、太陽がそのまま都市を接収してしまうが如き黄昏を感じられるのは、きっと盆地の底にうずくまっている街ならではなのだと思う。
で、猫だ。野良猫というやつはどこにでもいる − そうではない。彼らは、きみが必要だと思うところに必ずいる。大学での生活にうまく馴染めず、キャンパスに足を向けられなかった二十歳の頃には、御所のベンチ脇の植え込みに集まってくる猫会議にオブザーバーで参加させてもらっていた。売れないミュージシャンであり続けることに疲れ切っていたあの頃、バイト先のダンボール置き場で時々出くわす白猫が相談相手だった。彼らはひとの話を聴かない、それが自分たちのなすべきことだと知っているからだ。話すときはいつも一方的で、一通り何かを伝えたあとはいつも上の空になり、すぐにどこかへ行ってしまう。ぼくは猫がとくに好きなわけではない。たぶん猫もそうだろう。だから、ときどき会って、お互いに近況を伝え合うくらいがちょうどいいのだと思う。好き勝手なことを互いに口にして、はっとする気づき(あるいは隣のコンビニで買ったカニかま?)を拾い合えたら儲けものだと知っている、そういう関係。いまでも駅前の路地を歩いていると、たまに寄ってくるやつがいる。そういうときはだいたい何かを迷っているときだ。「あいつがな、あの黒縁メガネの冴えないやつだ、あいつがああいう顔をしているときは話を聞いてやれ、運が良ければツナ缶の一つももらえるだろうさ」とかいったメッセージが、連絡網に回っているのかもしれない。