錐状の光を まっすぐに飛ばす
眠たげな瞼を射抜かれて
はじめて甘い夢がとっくに終わっていたと知る
大変だ 駆け出すその速度ではもう次の快速にも間に合わない
迷ってしまったみたい
迷っていたことに気づいてしまったみたい
ねえ きみは
あの初夏の芳しいシンフォニーをいつまでも纏っていられると
本気で思っていたんだろう
きりぎりすのように
うさぎのように
祈りのように 願いのように
ただ健やかに涼やかに生きてゆけると
信じていたんだろう
冬はいつだって巧妙な罠で 僕らを不意に襲うのに
陽だまりを奪い合い 炎を盗み合い
街中をぴかぴか光る浪漫で飾り立てては必死でかき集めたぬくもりの山
その先にあったのは腐敗と火災 誰かの肩に掛けられるほどの布きれ一枚ない
そんなふうになるまで きみは一体なにをしていたんだい
この季節が美しいのは
ひとを凍え殺す程に残酷さが輝くから
骨のような枯枝の向こうに月が燦然と嘯くから
老いた獣の泥だらけの歳月の上に
線路傍らの廃家電から染み出したオイルの表面に
満員の酒臭い終電車がぶちぶちと潰しながら進む年の瀬の断片に
青白く反復するメロディが 繰り返し繰り返し降り注ぐから
そのなかでたとえばひとつ繋ぐ手
36度すこしの温度があればそれで充分だって
もっと早く気付けばよかったのにね
ほら でも
恐れてはいけない もう一度
この中途半端な寒さの底から始めよう
東京にはあのいやなみぞれ雪はあまり降らないんだってさ