2013年01月01日

或る翼に

 小さなころ、斉藤隆介というひとのお話が好きで、全集を買ってもらって読んだ。『モチモチの木』や『ベロ出しチョンマ』の作者といえば、分かる人もいるだろうか。モチモチの木は教科書にも載っていたような記憶がある。

 A4ノートよりも大きな本で、それなりにかさばったし重みもあったのだけれど、よっぽど気に入っていたのだろう、あちこちに持って行って読んだ(なぜか遠足のリュックにも入れていた)。随分汚したりもした。一冊全部を読み切らないのに別の巻を読み始めて、読み散らかしたりもした。その結果、全集は実家のあちこちに(応接間や納屋にさえ)放置されているらしい。ふと読み返したくなって母親に尋ねてみたのだが、十冊ほどあったうちの一部しか見つからなかった。でも一冊は姪のところに行っているらしく、それはそれでよいことだと思う。
 何度も何度も読んだので、話の筋はだいたい覚えているし、印象的な一行やセリフがふと頭をよぎれば、歩きながら涙があふれてしまったりもする。夜のうちはいいのだけれど、人ごみの中でそういうことがあるととても恥ずかしい。

 ひばりの出てくるお話が二篇ある。一篇はずばり『ひばりの矢』というもので、横暴な黒雲おやじがひばりたちの巣をふんづけるので、憤慨した若いひばり「いちろうじ」がついに立ちあがり矢を射かけるのだけど、すぐに叩き潰されて、それでもめげずにじろうじ、さぶろうじ、と挑戦者がつづき...というお話。もうひとつの短編は『天の笛』という題で、終わることのない冬に覆われてしまった世界を何とかしようと、ひばりが分厚い雲を突き破って太陽のかけらを取りに行く...というストーリーだ。前者はちょっと人懐っこい(実はシリアスなテーマを扱っているのだけれど)語り口がひどく魅力的で、後者は実にけなげで、痛切で、美しい物語。
 道徳の教科書はあざとすぎて嫌いだったけれど、なぜかこの人の書くものは、たとえそこに啓蒙的なものがちらついても気にならなかった。それが「物語」として充分に美しく、強く、面白かったからなのだろうが、それはさておこう。とにかく、このふたつのひばりの物語はいつのまにか、ぼくの書くものの主要なモチーフになっている(いちばん直接なのはシグナレスの”parade”で「飛び立つひばりのように 太陽のかけらをくちびるに」とある。それ以外にも彼ら=ひばりたちのことを下敷きにした歌詞は結構多い。物好きな方は探してみてください)。

 で、新しく書いた曲にもまた、ひばりが現れた。

 前日の夕方に降りだした冷たい雨が夜半を過ぎて雪に変わり、明け方すこし積もって、やがて止んだ。あくる日は寒いけれどよく晴れていた。雪は解けた。冬の太陽はあまり高くまで上がらない。西陣のとある路地に入ると、濡れた舗道が南からの陽光を跳ね返し、まるで光の上を歩いているようだった。そのとき一つの響きが、ふわりと降って来た。事務所へ向かい、仕事も約束もそっちのけでギターを抱えて、リフレインに変えた(確かめてみると、それはオープンDチューニングだった)。メロディと歌詞は一緒に出てきた。構成はAメロとサビだけ、二番までしかない簡単な曲になった。三年前のぼくなら、絶対書かないようなやつだ。
 ひばりという単語は、出てきていない。でも、これはいちろうじとじろうじとさぶろうじのことで、太陽に焼け死んだひばりのことで、こないだ久しぶりに会った土門(結婚して今は野田か)の押していたベビーカーのことで、姪(すみれ)と甥(コウスケ)のことで、酒場で会って原口統三の『二十歳のエチュード』を貸したバヤシという青年のことで、そしてぼく自身やきみのことで――いや、これ以上書くと野暮になるからやめておこう。

 大晦日、正確には年が明けて最初のステージ、アバンギルドでこのうたを歌った。それまでにずいぶん飲んでいたし、夜が深すぎたこともあってサビの出だしの高い部分がちょっとフラットしてしまったのが反省点。けれど、2013年のはじまりにこの詩を歌えたことはとても意味のあることだと思っている。もっとブラッシュアップして、早く一人前の曲に仕上げたいな。

「或る翼に」

雪どけに濡れた細い石畳を覆い尽くす
あの光の中を歩こう
手袋をなくしてかじかんだ指も
いまはただ伸ばして 光の海に浸そう

いつかはおまえもちいさな翼で
嵐の空を飛ぶ日が来るだろう

雲の切れ間めがけて投げつけたことばたち
叩き落とされても春を待つ種に変われ

目覚めの季節に眠ってしまった
いつかはおまえもちいさな翼で
今日より 明日より 未来の空を
眩いうたなど紡いでゆくだろう


 ニュアンスが冬の終わりっぽくも思えるのは「雪どけ」という単語で始まるからだろうか。春を待つ曲が多いように思われるがその実、冬はけっこう好きだったりする。アバンギルドではもう一曲「ルウナ」という新曲もやってみた。いままで書いたものの中でたぶんいちばん音程が高い。これも冬の夜道を歩いていて、できた。ぼくの創作の神経は、歩調と同じ速さで鼓動しているのかもしれない。

 ちなみに、アバンギルドの後はKYOTO MUSEに行き、午前4時にB’zの”ALONE”を短パンと袖を切り落としたTシャツ姿で熱唱する、というスカムなステージを披露しました。ピアノを弾いてくれた植木くんありがとう。最後は頼りになるミュージシャンたちが飛び入りでバンド編成になり、大団円で終わるという謎の展開。2013年は(も)愉快な年にしたいです。

posted by youcan at 21:34| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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