2007年10月18日

REM

風邪のせいにして眠り続けた何十時間
誰かが怒りに我を忘れ 痛みに叫びをあげ
幾つもの釦を掛け違え 銃口を誰かに向ける夢をみる
撃鉄を引けば咳が漏れ
時折その音で目を覚ましても
カーテンの向こう側が朱色に染まったのはただ午後五時の気まぐれだと思い直してまた目を閉じて
次こそは逢いたい人に逢いに行くだけだと眠りに墜ちてゆく
憶えば
熱にうなされたような日々
寝苦しい両手と両足で
知らず知らず周囲を蹴飛ばしてきたのかもしれないと
この甘い朦朧とした意識の流れに溺れ
知らず知らず凡てを傷つけてきたのかもしれないと
頭の片隅に浮かぶ音楽
こんど目覚めれば時計は壊れ
鳴り続けた電話も声を嗄らし
あの夜毎の喧噪も夜行バスの雑然とした光景も遠く
急速な眼球運動の果てに立ち停まった真夜中には
ただ僕ひとり

何かの名を呼ぼうとしてみても
その正しい音は遂に思いつかなかった
誰かの名を呼ぼうとしてみても
その正しい顔は遂に思いつかなかった

眠り続けた十数時間の結末にも
まだ風邪は治っていない
しかたなく僕はもう三錠の黄色い粒を呑む
明日現実に戻ったとき
悪い夢が誰かに染らないように
水はほんのりと甘く馬鹿げた味がした

posted by youcan at 06:40| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年09月13日

夕凪に沈み

夕凪に沈み
そのまま息を止めたいと思った
ここにあるのはただエンジンの音だけ
遠ざかる山並に滲んでゆく赤い空だけ
誰のこころにも触れないまま無為に散ってゆく波頭のように輝かしい日々だけ
それらがたった一瞬でも自分ひとりのために空間を満たす
あまりにも過剰な幸福の氾濫のなかで
そのまま息を止めたいと思った
posted by youcan at 10:10| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年08月25日

午前八時

残暑を喰い散らかす音楽を今日は運ぶ
高らかで地を這うような音楽を今日は叫ぶ
ここで ここから 何が始まるのか
午後二時よりあとにこれを読む人にさえ伝わるような
そんな歌を今日は刻む
たった一つのささやかな日記さえ見逃すことのない
くだらないトラックバックよりも
講堂の裏手で猛烈に飛び交い僕の血を吸って生き延びる
夏の虫たちを僕は許そうと思う
音楽と太陽をひたすらに浴びて潤うように干涸びるように
昼下がりに強く地を穿ちやがて消える八月の影のように
夏の暑さを信じようと思う
posted by youcan at 08:35| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年07月12日

tower

鈍色の朝を三人で走っていた
烏丸通にはまだ誰も居らず
毎日降り籠る雨を待つ街路樹の緑が今日も同じ予感に縁取られ
換えたばかりというタイヤが立てる青みがかった回転音がアスファルトに擦り付けられ
そのなかを始まりを知らないまま始めた三人が走っていた
夜通しの議論のあとで疲れ果てたあとに紡がれるのは
打ち壊すこともできない
諦めることもできない
六年を分かち合い 奪い合い それが何なのか分からないまま積み上げた奇跡の塔の話
塔から去って行くひとびとの話
塔が照らし出す景色の話
烏丸通りのいちばん向こうにある白い塔の話

たくさんのひとが一つの言葉で
たくさんのひとが幾パターンかの嘘で
たくさんのひとが似たような真実を取り巻いて
碁盤の目のなかに配置されているだけで

悪意と善意に満ちた誰かと誰かが
お互いに包囲し詰んでしまおうとして
そして結局は散り散りになってしまうだけで

そのときあまりに美しいメロディーが流れていただけで

その話はそれだけを示していたように思った
僕はそれだけで充分だと思った

交差点でひとりが車を降り
繰り返し交わされた冗談のような挨拶を残して
二人は踵を返した

白い塔は朝に姿を現し
今日も雨の中で街を見下ろすのだろう
日々の奇跡はあまりに美しいメロディーで きっと誰も聞き取れないほどに流れている
posted by youcan at 19:42| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月21日

六月の点線

ホームから続く六月の点線
ちいさな花をあつめて大きな一輪となり
大地の酸を吸い上げてその色を変え
雨に打たれても日差しに乾いても
別によいのだと云って目を閉じたグラデーションの粒たち
速度を増してゆく窓からこぼれ落ちてゆくだけで
ただ重ねあわせてみる景色
いずれ実線となりすぐに滲んでしまい
列車の遠くで手さえ振らない景色

地上でいちばんの混沌があたりまえのように整然と並び
ネオンサインが夕闇を待たずに君を照らし出し
大きな街頭ヴィジョンに喜びと悲しみが謳われ
君はその何事にも気付かずメールを打ちながら答えを待ち
あらゆる色、あらゆる鋭さ、あらゆる意味を含んだ線がこの空を飛び交う下で
絡めとられないように必死でメールを打ちながら
街から街へ滑り込んでゆく電車に揺られている

ちいさな花をあつめた大きな一輪が
大地の酸を吸い上げてその色を変える
ホームから続く六月の点線をたどっても
明日になればまた同じ場所に戻ってくるのだろう
せめて夏まではあの紫陽花たちを楽しみに往き帰りを繰り返そうと思った

posted by youcan at 07:09| Comment(1) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年06月11日

六月の朝

六月の朝が何故こんなにも胸騒ぎを呼ぶのか
ひと気ない錦小路を歩きながら考えた
魚の匂い 漬け物の匂い 動き始めた月曜日の匂い
その向こうに見える淡い光の空
昨日のあの歌
弱いものたちが夕暮れ・・・と口ずさんでみて
弱いものたちは朝を言祝ぐことも出来ず
覚めない夢を泳ぐしかないのだと気づいた
雨期を前にして緑がだんだんと濃さを増しても
滑らかな酸素を開いた両手いっぱいに放っても
弱いものたちはそのなかで苛立を燃やし
曖昧な否定を燃やし
覚めない夢を泳ぎ続けようとして
あと五分 あと一時間 あと数十年の間
もういちど布団に潜り込むしかないのだと気づいた
やがて市場のシャッターが上がりはじめ
この盆地の上空を暮らしの煙たちが覆い尽くした頃
雨が降り出すだろう
それが激しければ激しいほどよいのに
あの大洪水のように僕らを洗い流すほどならよいのに
その願いのぼやけた滑稽さと
あまりにも目に鮮やかな並木が重ね合わさって
胸騒ぎになって
そこでアーケードは終わり 僕は日だまりの中へ踏み込んで行った

posted by youcan at 15:31| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月30日

(無題)

その歌がほんとうに歓びだったので
自転車から一緒に口ずさんだ
晴れ渡る空によく響いたので
翼のないことなど忘れてしまった
朝の風
夜半過ぎに降った雨が
ようやく乾きはじめた
満たされなさもそのまま
見たままに重ねる音楽に
旅をする理由の一切があり
未来を賭けるだけの哀しみさえもが
あるのだと知った
この一日を彩る朝焼けのように
五月を叫びとおした若さの緑たちのように
誰もいない旧市街で静かに呼吸する駐車場の砂のように
美しいものは人間以外に任せておけばよい
私に必要なのは
ほんとうに正しい歓喜の歌だった
翼のないことも忘れて
自転車から一緒に口ずさんだのだ


posted by youcan at 04:14| Comment(1) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月25日

who stops the rain

透明で悲しくて残酷な映画のあと
ふと街のシンボルだったあの塔を見たくなった
街灯がぼんやりと照らす5月の裏通りを
サイダーを一本買って飲みながら歩いた
塔は駅前の大きなオフィスや駅ビルの窓に映り
諦めのように白く夜を反射していた
聳えもせず 貫きもせず
ただ家路を急ぐ人急がぬ人を
かなしい赤い目で瞬きしながら眺めていた
誰かの過つ日は
誰かの輝かしい日で
闇が新緑をいっそう鮮やかにし
誰もいないぼやけた狭い四つ角が強く存在を叫び
誰が盗み
誰が殺し
誰が愛し
諦めのように白く夜を反射しながら
まだ朝を迎える覚悟をできないでいる
大きな影のような時間だけが いまもゆっくりと呼吸する
透明で悲しくて残酷な映画のあと
街のシンボルだったあの塔を見に行った
帰り道に降り始めた雨は
目を覚ますと激しくなっていた
夢の中で見た蛇のことを僕はぼんやり思い出してみた

それは赤い目をしていたか
posted by youcan at 12:18| Comment(1) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年05月11日

海の匂いがしたので

海の匂いがしたので
止まってもよいのだと知った
雀が二羽あそんでいたので
笑ってもよいのだと知った
端正に刈られたつつじの垣根から鮮やかな緑が溶け出していて
巨大なドームとショッピングモールの向こうの空にはもう橙色の地平が滲み出していて
この青空とあの青空とどこかの青空とで無限に続くはずの過去と現在と未来とそれ以外の何か一切を一斉にフェイドアウトさせる一旦があって
あまりに透明で圧倒的な灰色だけがあって


今日はそれをなぜかとてもやさしいと思った



膨大な力と莫大な財産とで築かれた世界の断片を
肯定も否定もせずに五月は灯りを落とし
入れ替わりにいくつにも連なった照明たちが瞼を開く
ナイターゲームの始まり
雀は巣に帰ったのだろうか
彼らはいつもうまく眠れるのだろうか
渡りきる橋の上はやっぱり海の匂いがしていた
posted by youcan at 21:26| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月31日

いま咲くのは

いま咲くのは誰の季節だろう 
雨に濡れ まだ冷たいままのアスファルト
激しすぎたゆうべの嵐は開きかけた花を落とし
薄明かりに染まる空は嘆きにも似ていた
触れたものが総て奪われてゆくこと
信じようとすれば嘘に変わってしまうこと
交差点ですれ違う人が落ちた花を見ず
互いの行き先などけっして知らぬこと
そしてこの空は嘆きにも似ていた

信号が赤から青に青から退屈の色に
金属製の底光りする退屈の色に変わる
遠くから来た大きなトラック達が
一斉にスタートを切る
生活に必要なものたちの原料や塗料を積み
けれど名前だけはどうしても運ぶことが出来ず
正しさに唸りをあげて
街に在りどこへも行けない弱さを轢き潰して―



ふと見ればアスファルトはいつか乾いている
いま咲くのは誰の季節だろう
踏みにじられた花が最後の雨粒たちを隠しなお輝いている

posted by youcan at 10:19| Comment(0) | TrackBack(1) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年03月01日

会話のギャラリー

空の青は
昇っていった魂の色だと彼女は云う
目に見えるはず檻の格子
私たちはその向こうばかりを見て暮らしているのだと
云う
走り回って追いついたのが時間の影で
ひたすらに積み上げてかたちになったのが想いの破片で
きっとそれでも撮らなくてはならなかったのだと云う

そしてこんな晴れた日に弱い風があり
窓の外には待ち合わせのための気晴らしや
待ち合わせのための苛立ちや
気晴らしのための気晴らしで埋め尽くされた街があり
昇っていった魂は高度何フィートで地球にさよならするのかと
煤けた看板ごしに見上げながら今度は彼が云う
きっとここはどんな高みでさえ
生きるものたちの領空で
どんなに危険で厳しく張られた鉄条網であれ
生きるものたちへの警告で
その隣の食用鶏を加工する工場がどんなに残酷に血を絞っていたって
僕はこの街で
このギャラリーで
ただ君の撮った空の美しさに頷くほかに
誰に何を手向ければよいのか考えてるんだと
云う

日曜日の正午 地上三階の白い部屋には
壁いっぱいに並んだ問いにならない問い
答えにならない答え 対話にならない対話が
壁のこちらとあちらで始まりかけていた
(それはとても素敵な しかしやがて胸騒ぎにつながりそうな場面)
ひとりの生徒の母親の肖像を飽きるまで眺めたあと
ゆっくりと階段を降りる
息をして
 食べて
  愛したり妬んだり
   憎んだりまた願ったり
    喜びも悲しみも撮ったり描いたり歌ったりして

     
地上まで降りる頃には
何色になっているだろう

ギャラリーの出口
入れ違いにエレベーターがまた昇ってゆく
アーケードの隙間の空は弱い風に擦れて白くなってしまった
posted by youcan at 15:59| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2007年01月29日

渋谷

日曜日の最終電車に揺られて
家路に就く人を祝福するのは誰なのか
ポールに掴まったまま眠る彼女が居るのは
どんなにか揺らいだ夢の中
書けない詞
歌えない曲
歪んだギターがすべてを消し飛ばすのを聴きたくて
片耳しか聞こえないCDプレーヤーの音量を最大にする
右側で東京の酔っ払った学生が笑う
左側でニューヨーク地下世界の女神が叫ぶ
笑えない冗談
叫べない憤り
降りる
乗る
ほんの少し踏み出しただけで転げ落ちることがあり
ほんの少し踏み出しただけで良く見えるようになる
知る
彼やが僕が掬い取るべきものはその白線から15センチほど先にあって
それはいつも危険な賭けで 馬鹿げたゲームで
彼女が見る夢よりももっとゆらゆらとした何か
いつ目醒めるとも知れない何か
見る
日曜日の最終電車 最後に残った神様が
メロディを口ずさんでいた気がした
それさえもかき消すフィードバックの嵐を連れて僕は改札へ向かう
posted by youcan at 15:42| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月31日

万有引力

それらは無限に遠く
分かち合うこともできないだろう
求め ぶつかり 砕け散りながら
それでも地球は回っているだろう
孤独が震える程に美しかった時代には
赤い林檎さえもが誰かを想うことに耐え切れず
落ちてしまったこともあるらしい
だがそれも今は笑い話
力なく歌う故郷の街に
高く飛べなかった雪中の鳥に
真理を見失った科学者たちに
万有引力はあまりに確実すぎた


万有引力はあまりに確実すぎたんだ


もし今夜 交差点で君が
引き合うような 引き裂かれるような
使いふるされた希望のような言葉とすれ違ったなら
きっと捕まえたり書き留めたりヒット曲のなかに閉じ込めたりしないで欲しい
そこにあったのは無限の遠さのなかで不安定に震える時間の痛みと喜びに似た何か
僕にはその軌跡しか見えない
だからせめて手を振るだけ 手を振るだけで
確かめることもせずにまた散り散りに家へ帰る
ここで一つを終わらせ一つを始め
どんな天使の感傷も地上へ落とす力が飛び交っているだろう
posted by youcan at 22:23| Comment(2) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月16日

魚になりたかった
背の青いきらきらひかる魚になりたかった
痛みをしらず 怒りをしらず 
かなしみをしらない魚になりたかった
3500円 背もたれを倒すこともできない夜行バスに
すし詰めされ ゆられ ねむれない夜に思ったのは
これが沈没船だったらどうだろう
これが海だったらどうだろう
この闇が晴れ 朝になれば
僕は新宿ではなくって
遮るものもない果てしない青さのなかにいる
酔いつぶれて明けた土曜日の歓楽街もしらず
美しい国を声高に叫ぶ醜い議論もしらず
世界を一瞬で吹き飛ばすあの天の火の標的もしらず
ただ泳いでゆけばよい
群れをなしても またひとりでも
円をえがくように まっすぐに
まばたきもせず ただ泳いでゆけばよい
そんなふうになれたらどうだろう
よろこびの意味もしらず
歌うすべもしらず
駅前のネットカフェでブログを書くような
つまらない時間のつぶし方もしらない
僕はきらきらひかる魚になりたかった
ただ泳いでゆきたかったのだ
posted by youcan at 08:25| Comment(1) | TrackBack(5) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年12月07日

city

帰って来た街は雨
透明に屈折した闇の向こうに
何ごともなくただ濡れていた

喧噪と冒険の残骸を紙袋に詰め込んで帰り
貰い物の植木鉢に日常を掛け
火のつかない煙草を君は握りしめ
待ちわびた奇跡が安っぽいコップから毀れ
水たまり越しに煤けた髪をくしゃくしゃにし
永遠に続いて欲しいと願った和音だけが
そのほつれの中でいまも鳴っている
まだ鳴っている


ただ眠りたい、と
ぽつり
夢の中ですれ違ってしまった通低和音を探し
降り注ぐ旋律に傘をもう一度さす
帰って来た街は雨
願い事のように水滴を集めた窓ガラスに映る
何ごともなくこの街は雨
posted by youcan at 20:08| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月31日

昨夜の顔

ああ僕はなんて近視なのだろう
と思った
少しづついろんなものが見えては
君の言うようにすぐ見えなくなるのだ
明け方に射し込み始めた光は
あの柔らかな漆のような闇を拭い去ってしまうけれど
眩さのせいか足元の花も見えず
自分本位では自分の影すらも見えず
ただ猛烈な眠気と憔悴感に頭をくらくらさせながら
歩くのだ

汚れていても美しいものはある
正しくなくても美しいものはある
これはあの人のことば

汚れていても
正しくなくても
美しくなくても-
それでも許せるものはあるか
許されるものはあるか
これは僕の問い

腫れぼったい目で窓ガラスを覗き込んだところで
見えたのは くすんだ景色
見えなくなったのは 誕生と生存に喜び安堵したはずの曖昧な昨夜の顔
posted by youcan at 06:25| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年10月21日

神無月

流れゆく音楽がもっと孤高であればよいと思った
街を行くその足音たちがもっと誇りかに響けばよいと思った
時計台の下には若者たちが残光をもとめて集まって来ては
最後の晩餐を待つ使徒のように無知で無邪気で
今日への信仰に溢れて見えた

不安を磁石にして引き合う日々も
その赤い血に電気が流れているその間だけ
楠の隙間から落ちて来るあの色あせた青空を右手で掬い
僕らにはそれで構わないのだと知った

あとは流れゆく音楽がいつかメロディもリズムも失くし
一本のサイン波あるいは散乱する雑踏になり
街に王冠のように覆い被されば
たとえそれが茨であろうと光であろうと
ひとつの願いが満ちた証
きっとなんとかして笑っていようと思った

聞け
欠けたままの声と虫歯と秒針のない大きな時計が
今日も何かを計っているのだ

posted by youcan at 10:33| Comment(1) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年09月21日

移調

空が桃色に染まる
空が桃色に染まる
折しも季節は夏から秋へ
夏から秋へ
何故か哀しみは
沈みゆく太陽の輝きに併せ
懐かない世界
靡かない風
何も持たず何も手に入れず何も奪われない僕ら
その手は罪色に染まる
その頬は愨色に染まる
その骨と皮とは咬傷と嘲笑
表情を目まぐるしく変え
この窓を通じ向こう側を望み
今を望み
桃色のなかに融けて舞い上がり
雲になって錆び付いてしまうことを望み
こうやってただ手摺ごしに眺めている
夏から秋へ
夏から秋へ
夏から秋へ移ろうのは僕らか世界か
その答えを知るのはきっと確かに老いたときなのだろうか
posted by youcan at 20:27| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年08月03日

夏が来て

夏が来て、空を見ることが多くなった。

空は好きだ。

六時半をすぎたころ、
濃い青がだんだんと灰色みを帯びてゆき、
地上から見上げるとドームのように見えるあの空の西の端が、
ただひたすら壮麗で不吉で純粋な臙脂色に焦げ付いてゆく。

真昼の烏丸通、ビルの上に広がる雲の白、
並木の緑、
アスファルトを擦って流れて行く車の群れの音たち、
それらを一気に吸って無限に深い空気の層が地球を取り巻いている。

それはいつだって暴力的で、無関心で、
すべてを赦し捨ててしまうように、
そこにあるように見える。

いつだったか、
空に一匙、ガムシロップを溶かしたいと思った。
空が甘ければ哀しみが減ると思ったのかもしれない。


田圃の畦、子供のころ、支えようと手を伸ばした空。
部屋の窓からきらきらと射しこみ朝を刺し貫く空。
メトロの出口、階段の上のその先に逃げ散った空。
葵橋の上、三条方面のその向こうに放り出された空。
名古屋高架下、アスファルトにこびり付いた空。
長野、ソウル、苗場、福岡、広島、下北沢、
どんなこんにちはも、
どんなさようならも、
どんなありがとうも、
この夏空の強烈なひかりに消失して、
ただ影だけが僕らの足下に残るのだった。


夏が来て、
空を見ることが多くなった。
posted by youcan at 09:14| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2006年07月26日

予感の空

燃える予感の空と翡翠色の流れを横目に
無感動な僕らは自転車で急いだ
あの橋からもっと目を凝らせば
きっと見つかったのかもしれない

探せば失い
投げれば跳ね返り
結局きみは何を求めていたというのか

たとえば公平な豊かさ
たとえば美しい未来
たとえばより多く愛されること
それらは
いつも街角で声高に訴えられ売られ消費されているが
祈る人は少ない

夜行バスに乗り
眠りを諦め
擦り抜け追い越していくひかりの波たちをぼんやり眺めながら僕は何度もあの橋の上に帰って行く
立ち止まることを知らなかったのは
君だけじゃなかったのだと知る

走り抜けた大きな道路の尽きる場所では
はじめから何も手に入らないと
約束されていたのだと知る
そこにはまた工事があり 料金所が作られ
対価に終わりはないのだと知る

では 空よ
あの予感はなんだったのだろう
きっと見つかったのかもしれない
きっと舞い降りていたのかもしれない
きっと逃げ去り
笑いながら君を見ていたのかもしれない





ほらこうしてバスが着き
追い詰められたように迎えた朝に
繰り返される同じ展開と挿入歌とコマーシャル
そして次回予告
いまはせめて たったひとつ
新しい祈りが欲しいと思うんだ
posted by youcan at 08:42| Comment(0) | TrackBack(0) | | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする